困ったお客様

2026年10月01日。木曜日。11時15分。
品川区某所。アンティークショップ
【プリンセスメーカー】

「いらっしゃいませ」

東京都品川区にあるアンティークショップ、プリンセスメーカー。隠れた名店だが、ネット広告などを大きく打ち出していないせいか、客足はいつもまばらだった。

その店で週に二日ほどアルバイトをしている朝霧真由。25歳。普段はお店のアクセサリーなどの小物を陳列、たまに来る客の接客などを行っていた。

そして今日も、入店したとある客を見て、朝霧は少し困った顔をするのだった。

「真由様。ご機嫌はいかがですか?」

モノトーン調のエレガントなファッションをしたその女性。腰あたりまである漆黒のような美しい黒髪。モデルのような立ち振る舞いの彼女は、店の奥にあるソファへさりげなく座る。

「お飲み物をお持ちしますね」

プリンセスメーカーでは来店者にウェルカムドリンクを振る舞う。このお店のコンセプトはお客様をお姫様のように扱うこと。そのため来店時にはソファに案内し、ドリンクを振る舞うのが習わしになっていた。

「如月《きさらぎ》様、お待たせ致しました。冷たいレモネードになります」

朝霧はいつものように、丁寧な所作でドリンクを注ぐ。

「ありがとうございます、真由様。今日は真由様に似合うかなと思って、色々買ってきたんです」

如月はそういうと、持ってきたショップの紙袋から、買ったばかりと思われる洋服を次々に取り出す。

「デニムにロングスカート、秋物のコートとかも。真由様は素敵だから、どんなコーディネートでも似合いそうですよね」

ニコニコと如月は嬉しそうに話す。その様子に朝霧は困惑していた。

「如月様、いつもたくさんお買い上げ頂いているのに…… こんなにたくさんお洋服まで…… わたし、只のアルバイトですし…… その……」

迷惑です。とは言えないようだった。

「いつもお菓子とか、洋酒とか、素敵なプレゼントをいっぱい買ってきて頂けるのは大変嬉しいのですが…… その、如月様は大切なお客様ですので……」

言葉選びに苦しんでいる朝霧。如月はにっこりと笑い、全く動じていない。

「真由様。良かったら今度、一緒にお食事へ行きませんか? 素敵な夜景の見えるレストランがありまして――」

「……すみません。如月様。あいにく色々とお時間が作れず…… 門限も厳しいので……」

ひたすらに頭を下げる朝霧。

「――分かりました。私は真由様がお心を開いてくれるまでお待ちしています。今日はそちらのネックレスを購入させて下さい」

にこりと笑い、そう告げる如月。

「こちらのネックレスは――9万8千円になります」

そして玄関まで如月を見送る朝霧。笑顔で軽く手を振り、帰っていく如月。

「如月さん、良いお客様なのだけど……」

店の奥に戻り、独り言を呟きながら如月のプレゼントをロッカールームに運ぶ朝霧。その如月の真っ直ぐすぎる好意に、頭を悩ませていたのだった……。

第三章 迫り来る闇 へ

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