地下施設

2026年10月26日。日曜日。25時59分
(作戦開始から59分経過)

富士青木ヶ原樹海。南エリアC-32。

横田基地から三機のV-TOL強襲ヘリで作戦エリアに向かった私達は、無事に降下ポイントであるC-65へ到達。先行して降下したAASTウルフファングが安全を確保した後、私達選抜チームはヘリを着陸させた。

私達を降ろしたヘリはいったん作戦エリア外へと退避した。地下施設への入り口であるポイントC-32は樹海の中だったが、比較的スムーズに侵攻出来た。AASTウルフファングは二分隊、計24名で編成されている。第一分隊であるアルファチームは先攻して安全を確保し、第二分隊であるブラボーチームが後方の安全を確保している。私達選抜部隊であるチャーリーチームにはクリスが遠隔操作する索敵ドローンも随伴しており、常に360度の警戒索敵が行われていた。索敵データはヘルメットのバイザースクリーンに映し出され、それが全体で共有されている。

〈こちらアルファリーダー。C-32ポイントクリア。敵施設への入り口を確認〉

先行するアルファチームからの通信が入り、バイザースクリーンにアルファ隊からの映像が映し出される。樹海の大きな樹木下部に、何やら洞窟の入り口のような箇所が映る。

「こちらチャーリーリーダー。アルファ隊は侵入を開始せよ。中には敵が待ち受けている可能性が高い。抵抗の意思が見られる構成員は即射殺。AWに遭遇した場合は致命傷を与え出来る限り拘束し捕獲せよ」

神蔵が指示を出す。抵抗の意思が見られる構成員は即射殺…… 覚悟していたが、基本的にこれは殲滅作戦だ。ライフルを持つ手に緊張が走る。胸の鼓動が少し速くなっている気がした。

〈こちらブラボーチーム。退路に敵影無し。引き続き警戒監視を行う〉

「こちらチャーリーリーダー。退路の安全確保は任せた。これより敵施設への侵入を開始する」

すこし歩くと、洞窟の入り口が見えてくる。既にアルファチームが先攻して侵入している。洞窟の中は暗く、一切の明かりは無い。少しずつ地下へ向かっているようだ。ライトで周囲を照らし、慎重に先へ進む。

〈こちらアルファチーム。洞窟内部に大規模なシェルターと思われる扉を確認〉

大規模シェルター…… 送られてきた映像からは、かなりの規模である事が窺える。開けた地下空間の奥にあるシェルターと思われる外壁。扉も頑丈そうだ。こんな樹海の中にこのような施設を作れたのなら、只のカルト集団では無い気がする。明らかに多額の資金が必要なはずだ。

「こちらチャーリーリーダー。アルファチームは強行突入準備。C4爆弾を設置し合流を待て。合流後にドアを起爆し突入する」

〈了解。ブリーチング後は速やかに内部へ突入し制圧します〉

そして私達は、開けた地下空間にでる。その先には映像で見たシェルターの外壁が見えた。直接見ると、施設の大きさが改めて分かる。シェルターのドアにはC4爆弾が既に設置されており、あとは神蔵の指示を待つだけの状態だった。爆発範囲外に待機したアルファチームが、ライフルを構え突入待機している。

「詩姓――何かを感じるか?」

神蔵がそう問いかけた。

「敵意は…… 今のトコロ感じられない…… 大きな霊的反応もナイ……」

詩姓が右手を前方にかざしながら何かを感じ取っているようだが、これと言った反応はないようだ。北條さんも詩姓と同じように右手をかざしながら霊的なサーチを行っている。

「北條、一帯を魔法の明かりで照らせるか?」

神蔵が聞いた。

「大丈夫です。かなり明るくなるので気をつけてください」

「チャーリーリーダーよりアルファチームへ。ナイトビジョン使用停止。魔法で周囲を照らす」

北條さんが放った明るい光を放つ球体が、地下空間の天井に固定されると、洞窟内が明るく照らされた。

「なんでしょうか…… 数多くの弱い気が集まっているような。敵意は一切感じませんが、中に何かが居るのは間違いありません」

北條さんがそう言って法衣の中から蒼白い光を放つ十字架を取り出す。以前に審判と戦ったときに使っていた十字架だ。鮮やかなディープブルーの十字架の縁には、非常に細かい装飾が施されている。何か特殊な金属で出来きた十字架のようだ。

「女神アルサード様が与えし試練。私は皆を守り乗り越えて見せます。光の加護があらんことを」

霧峰さんが言葉と共に、鞘から長剣を引き抜く。この長剣には見覚えがある。以前にグラウンドベースが襲われた際に、橘さんが持っていた物とおそらく同一の長剣だ。刀身は限りなく銀色に近いが、若干青みがかかっている様にも見える。材質的に北條さんが持つ十字架と近いのだろうか……? 鍔や柄頭の部分には鮮やかな彫刻が施されており、柄は刀身とは違い北條さんが持つ十字架と同等の色になっている。

その時、バイザースクリーンにクリスの映像が映る。

〈作戦司令室よりアルファ及びチャーリーチームへ。C4起爆後はLiDARドローンで敵施設内部をマッピングします。スキャン完了まで警戒待機をお願いします〉

「了解。アルファチームはC4を起爆。敵がいつ現れるか分からない。警戒を怠るな。武器を持って出てきたら即射殺しろ」

そして激しい爆発音と共に土煙が上がる。随伴していた遠隔操作する警戒ドローンから、極小の小型ドローンが数機飛び立つと、瞬く間に破壊された扉の中へ飛び込んでいく。バイザースクリーンにはスキャン結果がリアルタイムに表示されていった。

「――かなり深いな」

しばらくして神蔵が呟く。現在までの解析によると施設内は多層構造のようだ。現在地が地下一階と仮定すると、地下三階までエリアがある。

〈作戦司令室よりアルファ及びチャーリーチームへ。地下二階と三階エリアに熱生体反応感知。かなりの数です。座標データを送ります〉

クリスからの通信。データから見るにかなりの数の生体反応がある。その数は100……いや、200から300近い反応がある。

「チャーリーリーダーから作戦司令室へ。生体反応の動きは探知できるか?」

〈現在LiDERドローンはスキャンを終え母機へ帰投中。持続的な動体検知は母機でないと不可能です。母機をアルファチームへ随伴させます〉

「了解した。アルファチームは母機がLiDERドローンを回収後に施設へ侵入し、地下二階の生体反応を調べろ。敵構成員の可能性が高い。油断はするな」

スキャンを終えたLiDERドローンが母機に収納されていく。随伴している索敵ドローンは大きな無線操縦ヘリくらいのサイズだが、驚くような静粛性を持っている。魚類であるエイに似た流れるようなフォルムの索敵ドローンは、アルファチームを導くように破壊されたドアから施設内部へ侵入していった。

〈こちらアルファチーム。一階クリア。ポイントAの階段から地下二階へ向かう〉

スキャン結果からこの地下施設はかなり広い。各フロアに数カ所の部屋がある。アルファからの映像を見ると、何かの実験施設のような感じも受けるが、廃棄された後なのか機材や設備などは見当たらない。

全身に感じる何かの不安…… 一体ここは何なのだろう……? 青木ヶ原樹海の地下洞窟内にこんな施設があるなんて聞いたこともない。心拍数が上昇し、気がつけばかなりの冷や汗をかいていた。

「――姫宮。この施設はおそらく廃棄されて間もない。この規模からすると建造にかなりの資金が投入されている。黒百合の会《ブラックリリー》の正確な規模は掴めていないが、これは構造から見て何かの実験施設だろう。大きな組織がバックに居る可能性があると俺は見る」

神蔵は静かにそう言った。

「こんな場所にこんな施設を建造するなんて…… 大規模な工事だったら本国の偵察衛星から補足されてもおかしくないと思うけど。何かしらのやり方でその目を掻い潜った可能性が高いわね」

〈アルファリーダーからチャーリーリーダーへ。地下二階のポイントに到達。組織構成員と思われる多数の女性を確認…… いや、これは……〉

アルファリーダーの映像がバイザースクリーンに映る。そこには広間の一角に腰を下ろして座り込んでいる多数の民間人と思われる女性達の姿があった。何やら皆、不安な表情で疲れ切っている様子だ…… 奥の方には疲れて寝ているのか数多くの女性が様々な体勢で横たわっている。

〈――年齢は、20代から40代くらいでしょうか。皆怯えています。この一角だけで200人は居そうです〉

「こちらが合流するまで警戒を怠るな。直ぐに向かう」

私達は急ぎ足で施設へ侵入し、地下二階の合流ポイントに向かう。施設内は非常灯が付いており、視界は確保できている。多少薄暗く気味が悪い程度だ。地下二階へ下りるとアルファチームと直ぐに合流できた。

「全員動くな! 君達――ここで何をやっている?」

神蔵がフロアに集まっている女性達にライフルを構えて声をかける。アルファチームもライフルを女性達に向けて構えていた。

「お願い…… 殺さないで…… ここに来れば、安定した生活を提供するって…… それで……」

手前に居た一人の女性が、弱々しい声でそう言った。

「大丈夫。我々は民間人に危害を加えるつもりはありません。皆さん安心してください。お話を聞かせて頂けますか?」

私はその女性に安心できるよう話しかける。聞くところによると、彼女達は三日ほど前にネットで衣食住と仕事を提供すると言われ、都内からこの施設へバスで連れてこられたらしい。だがその後、スタッフがこの施設に来ることは無く、彼女達は施設にあった保存食と水で飢えを凌いでいたと言うことだった。

この施設に連れてこられた女性達は、皆帰る場所が無いと言うことだ。セーフティーネットからこぼれ落ちてしまった生活困窮者達なのだろうか……。

皆が非常に疲れ切った表情をしている。

「アルファチーム、地下三階を調べろ。おそらく同じような女性達がいるはずだ」

〈了解。アルファチーム各員、セーフティー解除のままクリアリング開始。不審者がいた場合は投降を呼びかけろ。応じない場合は発砲を許可する〉

アルファチームが奥の階段を下りていく。エレベーターらしき箇所も付近にあるが、恐らく通電していない。不気味に静まりかえったままだ。

「作戦司令室――聞こえるか? 恐らくここに居るのは全員民間人だ。黒百合の会《ブラックリリー》の構成員らしき者達は見当たらない。聞いてはいたと思うが、彼女達の話では三日前に何者かによってここに連れてこられたようだ」

〈こちら作戦司令室。1週間ほど前からSNSを中心に不審な募集があったようです。衣食住付きのリゾート施設スタッフの募集。女性限定の募集で300名が定員だったようです。今はそれに関する情報は削除されていますが、サーバーに残っていたキャッシュから復元できました。状況がかなり不透明ですので、警戒を怠らないでください〉

クリスの応答に続き、室長の映像が映る。

〈神蔵。彼女達はかなり疲弊しているようだ。健康状態の心配もある。生活困窮者達が連れてこられたというのなら、我々は救助する必要がある。数人の健康状態を調べ、問題が無いようなら施設外に避難させろ。構成員が紛れている可能性もある。異変を感じたら容赦なく射殺して構わん〉

「了解、引き続き調査する。アルファリーダーへ。民間人発見の際はメディカルキットで数人の健康状態を調べろ」

〈こちらアルファリーダー。地下三階にて民間人を多数発見。全員が倒れています。気を失っている者も多数いる模様〉

「なんだと?」

バイザースクリーンに多くの女性達が倒れている様子が映る。フロアには空になった飲料水のペットボトルや携帯食の包装が所々散乱しているように見える。

「神蔵、まさかこれは……」

嫌な予感がした。私の言葉に神蔵も小さくうなずく。

「地下三階に降りるぞ」

私達は急ぎ足で地下三階に降り、アルファチームと合流する。資材搬入用エレベーター前と思われる広いエリアに、無数の女性が倒れている。地下二階と同じく皆、私服姿の一般人女性だ。大半が気を失っているようだが、僅かに動いている女性を発見した。私は彼女の側に駆け寄り、声をかける。

「大丈夫ですか? しっかりしてください!」

仰向けに倒れている女性は20代前半のようだ。だが、顔色がかなり悪い、ゆっくりと彼女の瞳が開く。

(!?)

強烈な悪寒が走る。まずい。この目は既に人間の目では無い。目が真っ赤に充血し、瞳孔が非常に薄い緑色に変化しており、かなり縮小している!

「神蔵! まずい! この人達はもう――」

私がそう叫んだ瞬間、バイザースクリーンに緊急警告が表示され、音声が流れ始めた。ワイプ表示されていたクリスと室長の映像が途端にブラックアウトする。

〈――作戦司令室との通信が途絶しました。これより作戦指揮は戦術指揮AIシステムMARIAが引き継ぎます。Nウイルスによるバイオハザードレベル3の事案が発生。アルファ及びチャーリーチームは対象を殲滅し該当エリアから直ちに脱出してください。繰り返します――〉

「ああぁぁぁぁぁぁ!」

突然の悲鳴が聞こえる。倒れていた女性達が不気味に起き上がってきている。アルファチームの一人が起き上がってきた女性に首元を噛みつかれていた。私の目の前に倒れている女性も起き上がってきそうだ。心拍数が急激に上昇しているのが分かる。もうやるしかない!

「各員一方向へ集まれ! フレンドリーファイアに気をつけろ!」

「神蔵! 奥に最適な交戦ポイントがある! 行き止まりだけどここで戦うしかない!」

バイザーに映る施設の3Dマップ。地下二階にいた女性達も恐らく何かのウイルスに感染している。と言うことは地下二階の女性達はまもなく発症し地下三階に階段から雪崩れ込んでくる。退路を断たれた以上、消耗戦になるが全員倒すしかない!

「みんな! 私に付いてきて!」

神蔵はアルファチームの援護に入っている。わたしは交戦ポイントに皆を誘導し、迎撃態勢を取る。行き止まりかと思われた場所は何かの倉庫前のようだ。扉は頑丈そうでビクともしない。

態勢を立て直したアルファチームが神蔵と共に走ってくる。

「攻撃開始! 極力頭を狙え! 接近を許すな!」

通路の左右に散開し、位置に着いたアルファチームがおぞましい姿となった女性達に攻撃を開始する。無数の銃弾が頭部に命中している筈だが、なかなか倒れない。

「もうやるしかない!」

照準で頭部を捕らえ、私はトリガーを引く。フルオートで連射される銃弾が頭部を貫き、激しく頭部を損壊していく。

何の罪もない一般女性が化け物にされ、私達に襲いかかってくる……。

やりきれない怒りと悲しみをぶつけるように、私は次々と迫り来る変わり果てた女性達の頭部を撃ち抜く。

「こちらチャーリーリーダー。ブラボーチーム至急救援を求む! 退路を断たれ敵に追い込まれている!」

神蔵が地上で退路を確保しているブラボーチームへ救援を求める。だがブラボーチームからの応答が無い。通信が途絶しているのはグラウンドベース作戦司令室だけの筈だ。

「ブラボーチームどうした! 応答しろ!」

神蔵が苛立っている。恐らくブラボーチームも襲撃された可能性がある。今回の作戦は完全に敵に漏れていた。これは巧妙に仕組まれた罠だ!

「私も応戦します! 衝撃波に備えてください!」

北條さんがまばゆい光を放つ十字架を迫り来る女性達に向ける。

「光の女神アルサードよ! 聖なる光で邪を滅し道を切り開き給え!」

そして蒼き十字架から強烈な光が放たれる、と思った瞬間だった。光は急速に収束し、十字架の光が消える。気がついたとき足下には赤黒い血の色をした魔法陣のようなものが大きく浮かび上がっていた。

「これは! 減衰魔法陣!」

彼女が足下を見て驚きの声を上げる。

「アルサードの力を打ち消す、対アルサード減衰魔法陣ダナ…… 北條、おそらくこの施設内でアルサードの力は使エナイ。ダガ――」

詩姓がニヤリと不気味に笑う。

「アルサードに属しない魔ノ根源ハ――影響を受けないというコトダ!」

詩姓が右腕を迫り来る女性達に向けると、その腕から火竜が舞い上がる。凄まじい熱量が周囲の温度を一気に上げた。

「――滅びヨ! 火炎竜舞踊《プロミネンスワルツ》!」

頭の中に詩姓の声が響いたかと思うと、凄まじい炎竜が渦を巻きながら女性達へ飛び交い瞬時にその場を燃やし尽くす。こちらにもかなりの熱風が伝わってくる。凄まじい熱による痛みからか、燃えながら苦痛の叫びをあげる変わり果てた女性達……。

その様子を見ながら、不気味な微笑みを浮かべる詩姓……。

「詩姓! 勝手な真似をするな! お前に攻撃指示は出していない!」

神蔵の怒号が飛ぶ。詩姓の攻撃範囲は燃えさかる炎獄となっている。その熱量から彼女達の衣服はおろか皮膚も焼けただれ、熱による苦痛の叫びを上げながら倒れていく。

「言ったハズだ…… 劣勢となれば動くとナ」

そう言うと詩姓は後ろに下がった。だがその腕からは炎竜が渦巻いている。その気になればいつでも魔法が放てるという事だろう。

「数が多い! 徐々に押されている!」

水原がライフルをフルオートで放ちながら、徐々に後退する。アルファチームや神蔵、そして私も応戦しているが、弾薬の消費が激しい。既に目の前は死体の山だが、通路の奥からおぞましい顔をした女性達が次から次へと現れてくる。もう100体以上は倒している筈だが、ここに連れてこられた女性達はおそらく300人前後だ。それを考えるとまだ半分も倒し切れていない。このままではやがて弾薬が無くなる。M7のマガジンは20発。最大装弾数の少なさが仇となっていた。しかもこのライフルはUCIAに配備された特殊仕様とは違う只の量産品だ。特別威力が高い訳でもない。

私は素早く狙いを定め、フルオートから単発射撃に切り替え敵の頭部を次々と打ち抜いていく。1発で倒れない敵も居る。2発から3発撃ち込まないと確実に敵は倒れない。残りのマガジンはもう後2つしかない。

「くそ! もう弾切れだわ!」

水原が弾切れとなったライフルを床に投げ捨てる。そしてハンドガンを引き抜くと狙いを定め次々と発砲する。

「姫宮! 単発で仕留めろ! 訓練を思い出せ!」

「言われなくてもやってるわ!」

神蔵やアルファチームも弾薬が少なくなってきたからか、フルオートから単発に切り替え射撃している。だがそうなると瞬間殲滅力は確実に落ちる。じわりじわりと敵との距離が近くなり追い込まれていく。まずい。このままでは全滅してしまう!

「今からワタシが減衰魔法陣を一瞬だけ無効化スル。その隙に北條は皆に加護をかけ、霧峰が先陣を切って敵をナギ払エ。5秒後に魔法陣を無効化スル!」

詩姓の言葉が頭の中に響く。この場に居る全員がその言葉を聞いたのか、ライフルをフルオートに切り替え一斉射撃を始めた。

「ありったけの弾丸をブチ込め! その後は近接戦闘で地下を駆け上がるぞ!」

神蔵が叫ぶ。ライフルを持った全員がフルオートで敵を殲滅していく。次々に投げ捨てられる空になったマガジン。激しい銃声とうめき声が辺りに木霊する。

「イクゾ! タイミングを合わセロ! 霊術消去炎《フレアエリミネーション》!」

まばゆい赤色の光が辺りを覆ったかと思うと、詩姓の掲げた右手から凄まじい赤い光がレーザーのようにあらゆる方向に飛んでゆく。そして地面に浮かび上がっていた減衰魔法陣がその光を失った。タイミングを待っていたかのように北條さんが一気に霊力を解放し、その場全体が蒼白い光に包まれる。

「光の女神アルサードよ! 我らに加護を与え給え! 天の光と慈愛の火、祈る声よ響け!」

彼女が十字架を掲げそう力強く唱えると、詩姓を除いて私達の体が蒼白い光のオーラに包まれた。体が軽くなると共に、消耗していた力や気力が湧き上がってくる。

その時だった。

(視える…… 七色に輝く…… これが自然粒子《マナ》……)

以前よりも強い加護を感じる私の体…… なんだろう…… 視界がもの凄くクリアになった気がする…… 七色の光の粒子が辺りに漂っている……。

それはもの凄く綺麗で…… 自然と手を伸ばしたくなる……。

「ありがとう鮎香ちゃん! 後は私に任せて! アルサード教会剣術の神髄――見せてあげるわ!」

力強い霧峰さんの声。我に返った私は弾倉が空になったライフルを投げ捨てると、近接戦闘用のタクティカルアックスを引き抜く。皆も全て弾倉を撃ち尽くしたのか次々とライフルを投げ捨てタクティカルアックスを引き抜いた。

最後尾にいた彼女がもの凄い速さで敵群に突進し、鮮やかな光を放つ長剣を振るう。次々に敵を切り裂き打ち払うその姿は、戦場に舞い降りた女神のようだ。あっという間に劣勢を覆し次々と敵群を薙ぎ払っていく。

「霧峰に続け! 地下二階を突破できれば生きて帰れる! 先頭は俺と霧峰に任せろ! みんな死ぬなよ!」

神蔵も敵群に突進し、念動力《サイコキネシス》で敵を吹き飛ばしながらタクティカルアックスを振るう。

行ける! 加護を受けた彼女と神蔵の勢いは凄まじい。ほぼ二人だけで敵集団を薙ぎ払って道を切り開いていく。束になって階段を下りてくる敵集団を殲滅していく二人。そして敵が途切れたところで一気に私達は階段を駆け上がる。

「もう少しだ! 敵はほぼ残っていない!」

地下二階にいた敵はまばらだった。まだウイルスが発症して間もないのだろう。神蔵も強いが霧峰さんの強さは圧倒的だ。凄まじいスピードで敵を切り裂き、その長剣を巧みに操っている。室長の訓練の成果なのか、以前とは段違いの動きだ。

そして私達は、無事に危機を乗り越え施設の外へ脱出することに成功した。

アルファチームも一人が犠牲となったが、残りは皆無事に生存している。

「――姫宮、大丈夫か?」

神蔵が私を見つめる。不思議なことに、それほど息は切れていなかった。おそらく北條さんの加護のおかげだろう。徐々にその効果が薄れている気はするが、まだ体力に余裕がある。加護には体力の消耗を抑え、徐々に回復させる効果もあるのかもしれない。

「大丈夫よ。私も普段から鍛えてるからね」

あくまで捜査官とはいえ、立場的には軍人である私。室長の日々の訓練が無ければ、何処かで命を落としていたかもしれない。あの状況で正確な射撃が出来たのも、日々の射撃訓練の成果なのだろう。皆に感謝したい。

「鮎香ちゃん、どうしたの?」

無事に生還したものの、北條さんの表情が暗い。霧峰さんが心配そうに声をかける。

「――ごめんなさい。あれほどの規模の減衰魔法陣が敷かれていたなんて…… 私、恐怖で混乱して何も出来なかった…… 冷静になれば、減衰魔法陣を解除することも出来たはずなのに、私は……」

薄らと瞳を滲ませる北條さん。今にも泣きそうな声に、霧峰さんが励ますように両手を握る。

「――鮎香ちゃん。みんなが力を合わせたから、生還出来たんだよ。わたしも鮎香ちゃんの加護が無ければあんな戦いは出来なかった。神蔵さんもね。だから鮎香ちゃんはしっかり役目を果たしたの。それを誇って良いんだよ」

そう言うと、霧峰さんはそっと彼女を抱き寄せる。

「大丈夫。私達には女神アルサード様がついている。そして鮎香ちゃんには私がついている。ずっと、ずっとこの先も。私は鮎香ちゃんを守り続けるよ」

霧峰さんの言葉に、北條さんは堪えていた気持ちの糸が切れたかのように泣き始めた。優しく頭を撫でて抱きしめている霧峰さん。二人の力は圧倒的だが、まだ高校三年生の少女なのだ。

そんな二人の様子を、私は微笑ましく見つめていた。そして神蔵が詩姓の元へ歩み寄る。

「詩姓。お前がいなければ俺達は全滅していただろう。指示を待たずに先制攻撃したのは許せんが…… 改めて礼を言っておく」

神蔵の言葉に、詩姓が少し驚いたようだ。僅かだが顔色を変える。

「私は…… 少し手伝っただけダ。礼なら北條に言うとイイ。あれだけの加護を複数に与えられる術者は…… そういないハズだからナ」

詩姓が不気味に微笑む。

「ソシテ…… 私が手伝ったノハ、謝罪の意味もアル」

途端に詩姓の目つきが鋭く変わる。瞬く間にその場から消えたかと思うと……。

「ちょ、ちょっと! 何をやっているんですか!」

その光景を見た霧峰さんが思わず声を上げる。アルファチームも全員が動揺しているようだ。

そして私と神蔵は、その人物にハンドガンの銃口を向けた。

「水原巡査…… そろそろ猫を被るのは、ヤメテモラオウカ…… オマエ、この後ろ首に刻まれている六芒陣はナンダ?」

水原の背後を取り、その体を完全にホールドしてナイフを首元に突き立てている詩姓。

「初めて会ったときカラ…… 私は気づいていたゾ。オマエの後ろ首に、霊的に刻まれている…… この六芒陣をナ」

「な…… 何を根拠にそんなことを!」

完全に背後を取られ、身動きの出来ない水原。

「何故ワタシが…… 釈放されたか分かるカ? 課長は最初からオマエを信用などしてイナイ。泳がせていたダケダ。公安捜査情報の漏洩、その犯人はオマエだ。後ろ首の六芒陣から感じる僅かな霊力残滓…… 課長はその疑念の確証を得たいため、ワタシを釈放したのだ」

詩姓がその不気味な表情を更に加速させていく……。

「さあ、そろそろ正体を――現してモラオウか!」

「あああああぁぁぁぁっぁ!」

首元に突きつけたナイフの刃をその肉にめり込ませる詩姓。水原の叫びと共に傷口から赤い血が吹き出し始める。徐々に深くナイフを突き刺していく詩姓。

「おのれ! ――オノレ!」

そう叫んだ水原。明らかに声が異質に変化した。そして完全に背後を取っていた詩姓を振り払うと……。

赤黒くその瞳を輝かせた彼女は――正体を現したのだった。

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