閃光の影 1
2026年8月17日。月曜日。15時20分。
千葉 聖アルサード教会 地下修練聖堂。
目の前では激しい攻防が繰り広げられていた。
今日は地下聖堂内での模擬戦日。今は結衣花ちゃんと千里さんが、激しく火花を散らしている。
「腕を上げたね結衣花ちゃん。だけどスピード勝負なら私が有利かな!」
AMGE第四位の黒川千里さん。小柄な体型だが二本の短剣を巧みに操り、結衣花ちゃんの攻撃を受け流しながら、徐々にその距離を詰めている。まるで忍者のようなその動きは、とても私にはマネできそうにない。
「まだまだ、これからですわ!」
追い詰められた結衣花ちゃんは、一瞬の隙を突いて大きく長剣を振り払う。短剣を交差させその攻撃を防いだ千里さんだが、体勢が微妙に崩れた。それを確認した結衣花ちゃんは素早く彼女の後ろに回り込み位置を入れ替える。
その時だった。
「……え!?」
途端に足下から魔法陣が光り輝くと、凄まじい音と光が結衣花ちゃんを襲う。完全に体勢を崩した彼女に、黒川さんが強烈な一撃を放つ。
「終わりよ!」
黒川さんのその一撃が、見事に結衣花ちゃんの長剣を吹き飛ばす。丸腰となった結衣花ちゃんに、彼女は満遍の笑みで短剣を突きつけた。
「私の勝ちね。設置型魔法《マジックトラップ》が仕掛けられてるのに気づかなかったかな? お疲れ様でした」
さらりとした身のこなしで、結衣花ちゃんの長剣を拾い差し出した彼女は、隅で観戦していた千鶴さんに歩み寄る。
「千里、格好良かったよ」
「まあ設置型魔法は、千鶴には敵わないけどね」
そんなことを言いながら姉妹でお淑やかに笑いあっている。いつもながらの仲良しぶりだ。
(いいな…… 姉妹の仲が良いって……)
最近は麻由美とあんな感じで笑い合う事も無い。それどころか私が家にいないせいで顔を合わせる事すら少なくなっている気がする。
しかし、見事だった。設置型魔法を仕掛けたタイミングが私にも分からなかった。恐らく何回か行った足払いの際に、気づかれないように仕込んだのだろう。強烈な音と光で威力は無い初級的な設置型魔法だけど、近接攻撃と合わせることで結衣花ちゃんの体勢を崩し長剣を鮮やかに弾き飛ばした……。
「千里さん、お見事でした。霧峰さんお怪我はありませんか?」
模擬戦の様子を眺めていた朝霧《あさぎり》聖女神官。教会内では救世主《メシア》と崇められているが、その事を本人はあまり喜んではいない。
「真由様。不甲斐ないところを見せてしまい、申し訳ございません。今後も精進いたします……」
「いえ、気にしないでください。本来貴女は一人でAMGEメンバーに立ち向かえません。北條さんの加護を受けていたとはいえ、魔法が使えない事は相当なハンデなのです。気を落とさずに、これからも北條さんと共に励んでくださいね」
優しくそう声をかける朝霧聖女神官の事を、私達は真由様と呼んでいる。いつも笑顔で私達に接してくれて、様々な事を教えてくれる。神官の最高位にあたる聖女神官に就いている真由様は、私達の憧れであり、尊敬する人物だった。
「正直なところ、近接戦のみだと結衣花ちゃんが勝っていてもおかしくなかったかな。それだけ長剣を扱えれば、蒼依さんとだって良い勝負をするはず。自信を持ってね」
千里さんがそう言って励ましている。黒川姉妹とはなかなか顔を合わせる機会が無いけど、千里さんも、千鶴さんも優しくて穏やかな人だ。
「結衣花ちゃん、お疲れ様。惜しかったけど、これからも二人で頑張ろうね」
わたしは結衣花ちゃんにタオルとドリンクを渡す。にっこりと微笑えむ彼女。
「ありがとう。鮎香ちゃんの補佐として…… これからも頑張るね」
言葉ではそう言うものの、結衣花ちゃんはかなり悔しそうだ。霊的能力の有無はかなり大きなハンデを生んでしまう。彼女もその才能が開花するよう訓練を積んでいるものの、今のところその成果は現れていない……。
「それでは北條さん。準備は宜しいですか?」
「はい。宜しくお願いします」
私は懐から蒼く光り輝く十字架を手に取る。今回の模擬戦の相手は蒼依さんだ。AMGE第二位の彼女に何処まで自分の力が通じるのか、興味はある。
「宜しくお願いします。北條さん」
静かにそう言って、長剣を構える彼女。しかし、いくら模擬戦とはいえ攻撃するのは躊躇してしまう。それも事実だ。
「こちらこそ、よろしくお願いします。蒼依さん」
只でさえ、蒼依さんが複雑な心境を抱えているのは皆が知っている。ASSP実施者への偏見、そして妬み。慕っていた光瀬さんの失踪……。
ダメだ…… 今は同情している場合じゃない…… 全力で行かなければ蒼依さんに失礼だ。
「それでは用意――初め!」
真由様の合図と共に、常時展開型防御結界《フォースフィールド》を展開させる。時間経過と共に常時展開型防御結界はその防御力が減衰していく。一気に攻勢をかけ短時間で勝負を付けるしかない。
「行きます!」
彼女に向けて扇状に炸裂する魔法光弾を放つ。次々と飛んで行く光弾が炸裂するが、上手く前方防御結界《シールド》でそれを防いでいる。相手を釘付けにするまで光弾を放ち続けた私は、一気に勝負に出る。
「光の女神アルサードよ。我に力を与え給え。全てを貫く光の矢。全てを燃やす光の矢。今、闇を引き裂き――光の裁きで全てを貫け!」
蒼く光る十字架を中心に形成される光の弓。私はそれを構え狙いを付けると、彼女に向けてそれを放った。
「行け! 光の聖弓撃《ライトニングスタンエッジ》!」
甲高い轟音と共に放たれる光の矢。それが直撃する瞬間だった。彼女は姿勢を低くし一気に走り込んでくると、ぎりぎりで光の矢を回避してその長剣を振りかざす。
(読まれてた!?)
私は瞬時に前方防御結界を展開しその剣による一撃を防ぐ。この地下聖堂では安全な訓練のために魔法の威力が減衰する。模擬戦では滅多に使わない高位魔法だ。思ったより魔法発射速度が落ちていたのかもしれない。
「惜しかったですね、北條さん!」
彼女の熾烈な攻撃を前方防御結界で防ぎながら、浮遊魔法《レビテーション》で空中に逃げた私は反撃に出る。彼女の周囲を高速で旋回しながら、次々と魔法光弾を撃ち出す。
(ダメだ。全然当たらない!)
予想以上に蒼依さんのスピードが速い。わたしはより霊力を込めて光弾を撃ち出すものの、こちらの発射速度以上のスピードで回避、そして防御されてしまう。こうなったら最大限霊力を込めた光弾を一気に放つしかない。
「行け!」
最大限に霊力を込めた光弾を放った私。
「ごめんなさい! 北條さん!」
その声と共に、彼女の前に見慣れない魔法陣が展開される。
(まずい! あれは…… 反射魔法陣!)
私の放った光弾は、彼女の展開した反射魔法陣に直撃すると、そのままの威力でこちらに跳ね返ってきた。私はすぐさま前方防御結界を展開するも間に合わない。
「きゃぁぁぁぁぁ!」