消えた少女

私達が千葉のアルサード教会に戻ったのは、丁度お昼前だった。バスに長く揺られていたが、いつの間にか眠っていたらしい。

帰りのバスでは、みんな静かだった。いつもは私に話しかけてくる結衣花ちゃんも、具合の悪そうな私に気を遣ってか、そっとしておいてくれた。松雪さんと蒼依さんが何かを話していたような気がするが、言葉数は少なかったように思う。

教会に戻り、招集までの間はそれぞれが回復施設《ヴェラ》で自由に過ごす事となった。長野の温泉も素敵な場所だったが、やはり通い慣れているこの場所はとても落ち着く。まるで海と繋がっているような温泉に身を委ねながら、瞳を閉じて様々な事を考えていた。

意外だったのは、蒼依さんにも本日の招集がかかっている事だ。AMGEを抜けると言っていた彼女、招集はかかっていないと思っていたのだが……。

そして私達は、教会大聖堂の上層にある会議室へと集まったのだった。

2026年8月27日。木曜日。16時00分。
千葉 聖アルサード教会 上層会議室。

「みんな。長野旅行は如何でしたか?」

時刻になると、真由様と上條聖司祭が会議室へと入ってきた。私達は立ち上がり一礼する。

「それでは座ってください。今日は色々と――お話しがあるのです」

なんだか、真由様の声のイントネーションがいつもと違う…… 何か重大なことが起きたのだろうか……?

「実は本日…… アルサード女学院高等学部のある生徒が、行方不明になったと警察に捜索願が出されました」

(なんですって……?)

「行方不明になったのは…… 女学院高等学部3年生、チェス部に所属していた浜野由奈さんという方です」

「……」

(嘘…… 由奈さんが……)

言葉が出なかった…… 由奈さんとは1年の頃からずっとチェスを楽しんできた仲だ。占いやオカルト好きで、夢見の魔女の噂話も由奈さんから……。

まさか…… 由奈さんは……。

「――北條さん。どうか気を強く持って下さい。捜索願が出されたのは先日の夜です。何かの事情で少し家出しただけなのかもしれない…… 見つかる可能性はまだ高いはずです」

真由様がそう私を気遣ってくれる。その言葉には素直に感謝したい……。

「真由様――ありがとうございます。きっと、見つかると信じています……」

そう言ったものの…… 先日のこともあって私の心は酷く動揺している気がする……。

心臓の鼓動が早く…… 心の冷静が保てない…… 見えない恐怖に少しずつ心が呑み込まれていく気がする……。

「そして皆さんにお知らせですが、AMGE第二位に即位している橘さんが――」

上條聖司祭がそう話し始めたとき、蒼依さんが急に席から立ち上がる。

「その事なんですけど……」

そういった彼女は、俯き加減だった顔を上げて口を開いた。

「申し訳ありません…… AMGEを脱退すると言うことは――撤回させてください」

その言葉に、皆驚きその場が静まりかえる……。

「……橘さん。なにか、大きな心境の変化があったのですか?」

真由様がそう問いかける。

「真由様のせっかくの計らいを無にしてしまい、本当に心苦しく思っております…… だけど私は、AMGEでやらなければならない事が出来たんです……」

(やはり…… 蒼依さんも私と同じ経験をした…… 恐らく間違いない……)

蒼依さんの目が、少し潤んでいるようにも見える。その時、松雪さんが席を立った。

「真由様。私は蒼依をAMGEに存続させる事には反対です。確かにその能力は非常に高く、皆を思いやる気持ちもある事は認めますが、精神的に傷つきやすく不安定な部分もあります。これから更に困難が増すとすれば、彼女にAMGEの任務は危険すぎると進言します」

松雪さんは静かにそう言ったが、口調が少し強く感じる。おそらくその言葉は本心だろう……。

ただ…… 彼女なりに蒼依さんの身を案じての言葉のように思える。精神的にデリケートな彼女の事を考えると、AMGEに今後も身を置くと命の危険もあることは事実だ。

松雪さん自身、蒼依さんの代わりなんていない…… そう言っていた。それだけ彼女の実力を認め、信頼している証なのだと思うが、彼女の今後を考えた上での言葉なのだろう……。

私が体験したあの夢を…… あえて現実と仮定すると、それを松雪さんも体験している可能性がある。素振りからは知らない様子だったが……。

「……分かりました。既にAMGE脱退の手続きを始めていたのですが、この件については今は保留とします」

真由様がそう言うと、蒼依さんと松雪さんは着席した。

「それでは、今後のスケジュールについて説明します――」

それからしばらくの間、私達は今後の予定や様々な報告などを受ける。退魔業もかなり人手が足らないようであり、霊的な調査事案も発生しているらしい。今後は色々と忙しくなるとの事だった。

そして私と蒼依さんは、真由様の執務室に行くよう上條聖司祭から命じられたのだった……。

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